鮎川哲也『黒いトランク』の謎
(以下ネタバラあるので注意)
本格ミステリとして読んでおかなければならない名作ということになっている鮎川哲也『黒いトランク』を読みました。
あれは、トランクの入れ替えトリックとアリバイトリックをかっちりやってて、鉄道好きの人でも満足できる時刻表ミステリーです。鉄道と船が主な移動手段の時代の話(1949年末から1950年はじめ)なので、今はもうこのトリックは使えない。小河内ももうダムになっちゃったし。
トランクの入れ替えトリックは、大きい黒いトランクの中に少し小さい黒いトランクを入れておく、という、天藤真『大誘拐』でも似たようなアイデアが使われたトリックです。
というのは大嘘です。でも読んだら「へえ」と感心する。感心はするんだけど「ええっ!?」と驚くようなレベルではない。
あと、犯行の動機がすげえおかしい。これは『虚無への供物』と同じ。疑似社会派。
納得いかないのは、犯人が若松駅から二島駅を通って福間駅に行くトラックの件なんですよね。
この話、うまいことうまい時間に、犯人を運んでくれるトラックが通りかかって、うまく列車に乗れないと成立しない話なんだけど、あの時代のことはさっぱりわからないんで、そこんところどうなの? とか思う。
あとこれ、真犯人は由美子さんだよね? 犯人とされている人の遺言はどうも嘘っぽすぎるんだよなあ。