砂手紙のなりゆきブログ

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武蔵野(フルメタル・パニック)

 武蔵野と俗に言われている東京郊外西部の高台は、昔は一面のススキが生い茂る荒地で、明治になって東京都市部の薪燃料として雑木林が植えられるようになりました。国木田独歩『武蔵野』その他明治・大正小説などに見られる風景は人工的に植林された雑木林です。
 戦後のエネルギー事情の変化にともない、家庭の燃料として都市ガス・LPガスが一般的になるとともに、武蔵野の雑木林は燃料提供としての役割を終え、食料供給のための麦畑になりました。庄野潤三あたりが描いているのはこの、「一面に広がる麦畑の中の郊外の寂しい家」。
 交通の発達と、更に激しい東京の人口増加のため、麦畑は次々に宅地に変えられて、東京の近郊に「一面の麦畑」が広がっていたのは戦後まもなくから1970年代はじめぐらいまで。その記憶を持つ人は、今では世代的に限定されています。
 日本語訳「夕空晴れて秋風吹き」で有名な「故郷の空」の元歌は、ロバート・ジョーンズ作詞による「ライ麦畑で出逢うとき」(Comin' Thro' The Rye)ですが、ライ麦は背の高い植物で、その陰に隠れて何かをするには適した植物です。日本でライ麦畑を見ることはほとんどありません。
 スコットランド民謡「ライ麦畑で出逢うとき」(Comin' Thro' The Rye)をアイデアのモチーフに、サリンジャーは『ライ麦畑でつかまえて』(The Catcher in the Rye)を書きましたが、母方のスコットランド系の影響でしょうか。ライ麦畑を見ていたかどうか。
 外国の民謡を日本の唱歌に変えて、小学校の音楽の授業で教えるという例は、日本で近代音楽教育が始まってから一般的ですが、「おお牧場はみどり」というチェコ・スロバキアの元詩はかなり違っています。英詩のほうが多分近いニュアンスでしょうか。
 武蔵野にある高校としては、(アニメ的には)『フルメタル・パニック』の都立陣代高校が比較的有名です。