砂手紙のなりゆきブログ

KindleDPで本を出しました。Kindleが読めるデバイスで「砂手紙」を検索してください。過去テキストの一覧はこちら→http://d.hatena.ne.jp/sandletter/20120201/p1

モーパッサン(の短編)はもっと評価されるべき

 モーパッサンというフランスの作家がいます。フローベールに小説の書きかたを徹底的に仕込まれて、十数年間に数百の長短編を書いて巨万の富を手にしたあげく、頭がおかしくなって死んだ19世紀末の自然主義作家です。
 日本では『女の一生』『ベラミ』『脂肪の塊』とか、世界文学全集の古い奴にはたいてい入っていて、たいてい飛ばされる(読まれることのない)作家ということになっています。俺だって読んでない。タイトルからしてつまらなそうですね。多分『女の一生』は、それと同じタイトルでつまらない小説があるからなんじゃないかと思います。まぁモーパッサンの作品で面白いのは短編です。
 夏目漱石が傑作怪奇短編「オルラ」を「愚作ナリ」とけなし、今となってはありがちだけど素晴らしいオチ短編の「首飾り」を「よく出来てるだけの話」と言っちゃったんで、日本文学にモーパッサンの短編はうまく入って来なくなりました。さらに田山花袋モーパッサンを誤読して、変な自然主義(日本的私小説)のジャンルを作ってしまったので、一層残念なことになっています。昭和の時代の世界文学全集では、長編は紹介されても短編はほとんど無視されてるんじゃないかな。
 ぼく個人としては、モーパッサンの短編はゴーゴリとほぼ同じぐらいのすばらしさ。モームグレアム・グリーンはその血を継いでると思う。
 今だと『モーパッサン短篇選』が岩波文庫に入ってて、冒頭の「水の上」というのをちょっと立ち読みしてみてください。これは、ボート乗りが奇怪な一夜をボート(川上)で過ごす話なんですが、奇妙な美しさとラストの嫌なオチが素晴らしいです。でもって次に「メヌエット」。これは老婦人と老人が、公園でメヌエットを踊るだけの話なんですが、何だろうなあ、こんな奇妙な話は聞いたことがないよ。多分君だってそうなんじゃないかな。
 ある程度まとまった数を読もうと思ったら、日本語では新潮文庫から『モーパッサン短編集』が3冊出ています。怪奇幻想ネタ中心の3巻がおすすめ。「オルラ」もその中に入っています。図書館に頼めば、黴のはえかかったような、1960年代に出た『モーパッサン全集』を出してくるかもしれない。
 あっそうだ、モーパッサンが好きで好きでたまらない作家に、永井荷風がいたんだっけ。彼はモーパッサンをフランス語で読みたいがために、フランス語を習った人なのだった。