砂手紙のなりゆきブログ

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無駄な伏線とか小道具が出てくる話(TARI TARI)

 桂米朝の落語に「小倉船」という、手塚治虫の長編漫画みたいにデタラメな話があります。
 関門海峡を渡る船で、半端な博奕打ちをとんちで懲らしめた商人が、どういうわけか財布を海に落として、たまたまそこにギヤマンの箱を持って長崎から大阪に行く人がいたんで、その箱に入って潜ったら龍宮城があって浦島太郎が出てくるという、どこで終わらせたらいいか米朝も困っちゃうような話です。
 手塚治虫の話って、いつも最初の数話ってすごい面白いんですけど、それと同じですよね。『未来人カオス』とか、描きながら話を作っていくとなかなか傑作ができるわけじゃない。手塚治虫に短編しか書かせなかった少年ブックの人はえらいと思った。
 そういう話ではなくてですね、なんでギヤマンの箱を持った人が出てくるか、初めは聞いてて全然わからないわけですよ。
 で、それが海に潜る道具になる、って無駄な伏線というか小道具。そんな話って滅多にないよ。
 アニメ『Kanon』の月宮あゆがなんでたい焼き好きなのか、『魔法少女まどか☆マギカ』の杏子がなんでうまい棒もしくはお団子が好きなのかわからない。団子の串投げるとかそういう必殺技なんてないですよね。そのくらいやれよ。
 無駄な伏線で一番びっくりしたのは、ベルトリッチの映画で『ラストタンゴ・イン・パリ』の部屋のベランダにつけたガムを『ルナ』で回収する、ってネタで、これ、話の本筋とも何も関係ないんですよ。そんなことやってるのなんて見たことない。まぁ、小説だとナボコフがすごいことをやっていて、あ、これは別の日のネタにしよう。
 今回は、なんか変な伏線の話として、『TARI TARI』の田中大智を思い出したのだった。
 事故で入院している校長先生の見舞いと、「合唱ときどきバドミントン部」の部活申請に行くので、大智は他のメンバーと一緒に病院に行きます。ちなみに彼は主役の女子複数にいじられるキャラで、主役ではありません。
 大智は大会に備えてバドミントンの練習をしている(病院に行く電車を待っている間もトレーニング)。まぁバドミントンは声出さなくてもできますからね。素振りはできないけどラケットは持ってる。
 で、病院に行って許諾のハンコをもらう直前になって、声楽部の顧問で校長先生の代理を務めている教頭先生(女性です)が現れて、申請書を見て「こんなたわけた部が承認されると思ってるのですか」とみんなを威圧して、紙を丸めてくずかごに放り投げる、そのとき。
 大智が丸められた紙をくずかごの直前でラケットで拾い、「納得できません」。
 このシーンのためだけに、わざわざこの男をバドミントンできる奴にしたのか、と思えるぐらいの見事さです。
 テニスでも卓球でもバスケでもなくてバドミントンだよなぁやっぱり。すごいわこの話。
 他にもみどころいろいろあるので、機会があったら見てみてください。