光と影が美しい大映時代劇の眠狂四郎(眠狂四郎 円月斬り)
大映時代劇の美術・照明はいろいろな意味で感心します。あの、金をかけて作ってそうな質感のある、リアルと虚構の間にあるような貧乏くさい居酒屋とか農民の小屋のよごれ具合ときたら、ちょっと今どきの映画では滅多に見られない気がします。だいたいそういうのは大映京都撮影所の内藤昭さんが作ったということになっていまして、座頭市・眠狂四郎・大魔神その他のシリーズのセットにおおむね関係しています。
安田公義監督の映画『眠狂四郎 円月斬り』(1964年)はシリーズ3作目の作品で、将軍家斉公の庶子で刀剣好きの不良とその一党を相手に眠狂四郎がチャンバラするわけなんですが、その強いのなんの。悪党20人ぐらいかかっても全然勝てません。半端な悪者の仲間の町人娘は犯すけど、金や仕官には無関心で、子供と貧乏人には優しい正義の味方です。
もう、冒頭、娼婦や貧しい人たちが住む橋の下、河原のシーンからして自然光を過剰にした演出になってて、真ん中の焚き火を囲む人たちの、どこか絵画的な陰影が美しいこと限りないです。照明・岡本健一、撮影・牧浦地志。美術は加藤茂です。
室内の灯だと、やはりコントラスト強めに出してます。
飲み屋で飲むところは自然光を生かした逆光。
正面からのアップでも、けっこう眠狂四郎に影つけてます。彫りの深い美形の容貌というのがよくわかります。
あと、カメラが黒澤明的パン・フォーカスじゃなくて、手前・奥などにピントを合わせた画面構成もすばらしいです。
ただ、こういう映像を映画的に評価する、というのは、非映画的(舞台的?)な東映時代劇映画を否定するものでもありません。あれはあれでいいものだし、再評価している人もいるんじゃないかな。まぁ、「東映大通り」とか「東映東海道(松並木と茶畑と富士山)」は少し「またかよ」感はありますけどね。
ちょっと大映時代劇の陰影は、白黒映画の技法をさんざん苦労して身につけた人たちが、なんとかカラーでもできないものか、と工夫している気がするんですが、どんなもんでしょうかね。