砂手紙のなりゆきブログ

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ところで皆さんは落語「笠碁」で「待った」っていう人はどっち向いてしゃべっているか覚えてますか(大工調べ&船徳)

 落語「笠碁」は、碁好きな二人の人物を語る話で、年齢的にはもう楽隠居してるぐらいの人が子供っぽい喧嘩をして仲直りをします。「ちょっと待った」と相手の手に対してお願いをするのはその家の主(あるじ)で、向かって右(上手)のポジションで、向かって左の囲碁相手の客(下手)に話しかけます。「あんとき私が待てないって言いましたか」というくだりが滅茶苦茶面白いんですが、そこらへんは省略して話すと、落語では基本的に「格が上」の人が向かって右にいることになって、左に向かって話します。だから「道具屋」の与太郎や「時そば」のそば屋なんかは右にいることになっている客に対して、左ポジションで話します。ただ、「時そば」は、そばを食べるところを斜めに見せたりするといけないんで、そばは正面を向いて食べて、客が話すときは左を向いて話します。
 これが「大工調べ」になるとさらにややこしいことになって、ぼくが見た古今亭志ん朝のやつでは、
・大工の棟梁と与太郎との会話では、棟梁が右を向いて話して、与太郎が左を向いて話します
・金を持って与太郎が大家のところに行くのは正面演出で、大家の家につくと与太郎が右を向いて話します
・お白州では奉行が左を向いて話して(格が上だから)、調べられる側は向かって左から大家・棟梁・与太郎の順で、棟梁は与太郎・奉行と話すときのどちらも右を向いて話すんですが、与太郎は棟梁とは左向き、奉行とは右向きで話します
 ここで「右向き」「左向き」というのはいずれも「向かって右向き」「向かって左向き」の意味です。
 さらに「船徳」ではもっと面白いことやっていて、ぼくが見た柳家小三治ヴァージョンでは、
・勘当された徳さん(徳兵衛)と船宿の親方との会話では、徳さんが左に向かって話してるのに、親方に船頭になるのを止められると「そんじゃ他の船宿に聞いてみる」って言って、ちょっと出かかる。すると今度は徳さんが右に、親方が左に向かって話しかける。一瞬「あれっ?」と思うんだけど、無理がないんでたいていの人は気づかない。
・その後、客の二人づれ(一人はしぶしぶ船に乗ることになる)と船宿のおかみ、徳さんの会話
・橋の上から「大丈夫かー?」って声かける人
 とかいるんですが、左端にしぶしぶ船に乗る客、右端に徳さんがいることにしといて、もう一人の客とおかみさんは左右を見ながら話す。
 こういうのはまぁ、舞台的な演出なのかなぁ、とか思った。
 左右のボジションが入れ替わるときの落語家の工夫が、特に面白いです。

 

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