砂手紙のなりゆきブログ

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見ててぼくの目がおかしいんじゃないかと思う不思議な撮影の映画『ロング・グッドバイ』(グラグラ映画)

 ロバート・アルトマン監督の映画『ロング・グッドバイ』(1973年)は長い間ミステリー・ファンの間では「なかったことになっている映画」の一つでした。
 この中のエリオット・グールド演ずるところのフィリップ・マーロウが「センチメンタルな探偵」の代表作品である(と当時思われていた)原作とあまりにもかけ離れていていて、ただの不良中年にしか見えないところが原因だったと思われます。
 ハメット・チャンドラー・ロスマク(ロス・マクドナルド)というハードボイルド、というか今から回顧するとアメリカ私立探偵小説の中で、どうもレイモンド・チャンドラーに関しては日米の小説のイメージが違っている気がします。一人称はやはり「おれ」と訳しておけばよかったのに、とか思います。
 ハードボイルドに関する何かを語るのは別の機会にでもして、この映画は「グラグラ映画」の元祖として有名です。なにしろ、冒頭で横になっている主人公をカメラが左から右にパンして、猫が登場。猫に冷蔵庫から餌を出して与えるところとか、すべて微妙にカメラが横に移動したり微妙にアップになったりして、全然話に集中できない。
 人の目というのは、普通そんな風に事物をとらえたりしないんですよ。カメラみたいにスムーズに、風景をぼんやり左右・上下に見流す、ということはないんです。自然に特定のもの(景色だったら、遠くの島とか船とか)に、無意識に焦点合わせてしまう。
 このカメラマン(撮影監督)は『ギャンブラー』でもびっくりしたヴィルモス・スィグモンドで、撮影技術のすばらしさでは『ゴッドファーザー』のゴードン・ウィリスと並んで評価すべき人だとは思いますが(考えたらどちらもウディ・アレンの映画撮ってるんだよな)、いろいろやりすぎな映画もあります。

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