砂手紙のなりゆきブログ

KindleDPで本を出しました。Kindleが読めるデバイスで「砂手紙」を検索してください。過去テキストの一覧はこちら→http://d.hatena.ne.jp/sandletter/20120201/p1

回転木馬と映画(エチエンヌ・ジュール・マレーとエドワード・マイブリッジ)

 19世紀末まで、馬はどうやって走るのかわかっていませんでした。
 正確に言うと、馬の歩きかた・走りかたにはウォーク・トロット・キャンター・ギャロップの4種類あって、このいちばん早いギャロップで、脚が4本とも宙に浮く状態というものがあるのかないのか、学者たちのあいだで話がまとまりませんでした。馬はなにしろ早いですからね。動画も写真も何もない時代だったんで意見がわかれてたんです。
 19世紀フランスの生物学者エチエンヌ・ジュール・マレーは「動物のうごきを再現することで機械がつくれないか」と考えました。馬のうごきをする機械をつくれば馬のように早い機械、鳥のようにうごける機械なら空を飛べる機械がつくれないか、という発想ですね。じつにわかりやすいです。
 マレーはまず人間のうごきをフェナキストスコープ(ぐるぐるまわるまわり灯篭みたいなのにスリットをつけて、そこから覗けるようにしたもの)で16段階の絵にして知ることができました。
 つぎに馬はどうか、ということですが、1878年末にフランスの科学雑誌『ラ・ナチュール』に、アメリカ人写真家エドワード・マイブリッジによる走る馬の写真が掲載され、それを見たマレーは「絵」ではなく「写真」による動きの研究、ようするに「映画」のもとになる研究をはじめました。
 マイブリッジはすでに1878年には、カリフォルニア州知事だったこともあるリーランド・スタンフォードの協力(資金援助)を得て、12台のカメラによる連続撮影ではじめて、ギャロップの馬の脚がどうなっているかを画像にしていました。
 リュミエール兄弟による世界最初の実写映画は1895年末のことですが、それ以前にもさまざまな人たちが「動く絵(写真)」というものを見せる工夫をしていました。
 馬のギャロップは現在動画で確認すればおわかりのとおり、4脚を伸ばした状態ではそのうちのひとつがつねに地面についているんですが、伸ばす前にいちど、脚を内側に曲げますよね。そのときには宙に浮いてるんです。
 で、世界最初の回転木馬(メリーゴーラウンド)なんですが、だいたい1860年ごろ、フランスでつくられたということで、当然「走っている馬の姿」ははっきりわかっていませんでした。
 遊園地などに行く機会がありましたら、回転木馬の脚の形がどうなっているか確認してみるとおもしろいと思います。
 鳥のうごきとなるとさらに大変なことになっています。
 アニメで馬や鳥の動きがきちんと描かれてるのあったらお目にかかりたい。
(今回の話はロバート・スクラー『アメリカ映画の文化史』講談社学術文庫に依拠してます)