砂手紙のなりゆきブログ

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横山秀夫『64(ロクヨン)』を読んだけど、これより別の方向で泣かせる短編知ってる

(今回はタイトル作品のネタバレになっている部分もあるのでご留意ください)
 百田尚樹が、自分が『海賊と呼ばれた男』で2013年に本屋大賞を取ったときの2位受賞作『64(ロクヨン)』を「ここ三年の本屋大賞候補作で私が唯一の既読作品だった『64』は素晴らしい作品でしたが受賞できませんでした」とほめていて、平台に置かれていないのはけしからん、ということだったので読んでみました。
 話の内容は、7日間しかなかった昭和64年(1989年)、D県で起きた誘拐事件を引きずっている男たちの14年後の物語で、これに警察内部のキャリア対ノンキャリア、警務部対刑事部、公報課対マスコミ(記者クラブ)、主人公対その高校を同じくする同期、などさまざまな「○○対××」の構図が組み合わさってて、なかなか読みごたえのある小説でした。人物がやたらたくさん出てくるので、名前と職種・性格などをメモしながら読んだらじつに効率よく読めたのでこの方法おすすめ。
 読んだ感想としては、横山秀夫百田尚樹も、組織の中で働いた経験ありながら、最後のところで人間を信じている、いい人なんだろうなぁ、という人格評価が出てきてしまいました。あと真面目な人ですかね。主人公の家にかかってきた無言電話の真相にはちょっとあきれた(ほめ言葉みたいな方向で、です)。その他主人公の妻の過去とか、脇役にまで「作者がいい人だと思わせたい人」には裏設定しっかりつけてるのには感心しました。その分、キャリア組とか記者クラブの人間とか、悪い人側が薄くてすこし戯画化みたいなものを感じました。
 ただ、誘拐事件にかんしては、ぼくの心の中で残り続けているある短編があるので、ちょっと記憶のままにまとめてみます。

 A市で子供の誘拐事件が起きた。犯人と思われる人間からは「○○事件を覚えているか」という連絡があった。
 その事件はやはり誘拐事件で、子供が殺され、未解決のまま何年も過ぎていたものだった。
 警察がその事件の被害者であったBの身元を確認すると、何日か前から勤務先を休んでいて連絡がとれない。
 おまけに誘拐された子供の年齢や容姿は、○○事件のときとほぼおなじ。
 てんやわんやの被害者宅に、その日の夜、容疑者が子供を連れてあらわれる。
 子供にはとくに何かをされたという形跡はなかった。
 警察側では、さっぱり誘拐の動機、というものがわからない。
 警察に聞かれた容疑者(犯人)は、こう答えた。
 ………………………………「子供が無事に帰ってきたときの、親の顔が見たかった」(自分はそうならなかった)

 1980年代のミステリ・マガジンに掲載された作品だったと思うんだけど、タイトルも作者も思い出せないんだよなあ。