砂手紙のなりゆきブログ

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カフェの壁を背後にして座る人(アルノルト・ベックリン)

 アルノルト・ベックリンはスイス生まれの画家で、19世紀末に象徴主義の人としてせっせと絵を描き、代表作『死の島』はヒトラーに買われたり、ラフマニノフに同題の交響詩作曲させたり、福永武彦に同題の小説書かせたり、そりゃもう大人気でした(同じような絵の違うヴァージョンがいくつもあったんです)。
 モデルになった島はイタリアのフィレンツェにあった英国人墓地とウィキペディアには書いてありますが、あまりイタリアっぽくない気がします。かといってドイツ的(ゲルマン的)というわけでもなく、いろいろ考えさせられます。
 D.H.ロレンスは友人の画家アーネスト・コリングスに1913年1月17日付の手紙で、
「ぼくのうしろに女性(この場合は明らかに当時恋愛関係にあった人妻フリーダです)がいないとやる気が出ないんです。ベックリンとか彼みたいな人が、カフェで壁を背にして座らずにはいられないみたいな感じで」
 とわけの分からないことを言います。
 ということで、せっせとベックリンがカフェにいるようなところの絵はないかと探してみたんですが、全然見当たらないのであきらめた。
 これは手紙のやりとりをしたふたりだけに通じる隠語なのか、それとも当時有名な何かなのかさっぱりわからない。常識的にはひとりでカフェにいるときには、ベックリンじゃなくて今の普通の人でも壁を背にして座ると思うんですけどね。
 D.H.ロレンスの書簡集は4500通の手紙を全8巻にまとめたケンブリッジ版が知られています(1979年から2003年にかけて編纂されました)が、そんなもの翻訳しようとする人どころか、読もうと思った人だって日本ではそんなに多くない。
 ネットで読めるテキストとしては、「手紙作家としてのロレンス」(木村公一)という論文があります。
 あと、関連として翻訳者・宮脇孝雄による『The Prussian Officer and Other Stories』という短編集の中の「プロシア士官」紹介のテキストとか。この短編集はキンドルだとただで読めます。
 なんか福永武彦読みたくなってきた。
 ウィキペディアに掲載されてた画像はパブリックドメイン扱いだったので、ちょっとだけ掲載してみます。

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