砂手紙のなりゆきブログ

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埼玉県立図書館がネットに挙げている禁書目録から(清水一行『捜査一課長』)

 埼玉県立図書館のサイトで、「検閲・禁書にあった資料リスト(~1999)」というのが公開されてます。おもに1970年代から90年代のものですが、小田実『脱走兵の思想』太平出版(1973年)思想的偏向、とか、大江健三郎同時代ゲーム』新潮社(1981年)教育的配慮、とかいろいろすごいものが並んでいます。漫画も絵本もあります。
 個人的には裁判沙汰になった清水一行『捜査一課長』の話が興味深いです。これは埼玉県立図書館の「兵庫県 地裁判決」ではなくて、「一審判決(大阪地判平成7・12・19)、控訴審判決(大阪高判平成9・10・8)ともに、名誉毀損を認め、最高裁(最一小判平成11・2・4)は、上告を棄却、名誉毀損が確定」というようなことが「やさしい憲法判例 「捜査一課長」事件」というブログテキストに書いてありました。
 小説のモデルになった事件は「甲山事件(かぶとやまじけん)」という知的障害者施設・甲山学園で1974年3月に起きた園児殺害事件で、検察側と容疑者の延々20年にわたる裁判、地裁→高裁→最高裁→地裁→高裁、のすえ、検察側が上告を断念したため無罪が確定したものです。
 清水一行が『捜査一課長』を発表したのは1977年のことですが、その時点で容疑者を犯人と決めつけるような描写がなされ、小説中ではモデルはぼかされて書かれていたんだけど読めばすぐに誰と推測できる内容で、公開されている情報を過度に歪曲した物語作りが「プライバシーの侵害」ではなく「名誉毀損」として、出版社・作者ともに訴えられました。被告の出版社・作者の弁は「事実をもとに、意見を表明したもの」ということで、フィクションとして実在の事件(ノンフィクション)をどのように扱うか、人権問題についていろいろ考えさせられました。この小説は裁判中に発表されたもの、ということで余計に揉めたんじゃないかな。
 過去の裁判沙汰で、今はもう忘れられたようなものをネット上で読むのは割と好きなんですが、これやり始めるとものすごい勢いで人生の残り時間削られるんで、ほどほどにしています。