砂手紙のなりゆきブログ

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奥のほうで動く人(非情の罠)

 スタンリー・キューブリック監督の長編映画第2作『非情の罠』(1955年)はボクサーを主人公にしたサスペンスで、見るのに非常な緊張感を強いられた映画でした。なにしろ映画の中のどこで誰が何をするか、いつ殺されるかとんとわからない。カメラワークは鏡とか光と影とか使って室内シーンでも技法ギラギラ見せつけてるし(撮影監督もキューブリックです)、ヒッチコックヌーヴェルヴァーグの独自解釈みたいな映画なんですが、いろいろキューブリックの作品を語るには見ておいて損はない映画だと思いました。
 ヒッチコックの『裏窓』は1954年、トリュフォーの短編『あこがれ』は1957年、大島渚の『青春残酷物語』は1960年のことでした。『非情の罠』ではラスト7分の、マネキン工場での槍と斧による謎の大格闘が有名ですが、ぼく個人はボクシングシーンに呆気に取られました。ボクシングしてるところを、こんなにめちゃくちゃに(褒め言葉)撮ってる映画、他には知らない。いろいろ不思議な技法が使われてるんですが、当時(1950年代なかごろ)のハリウッドのスタジオ撮影とは違う気がする。
 主人公の窓から、ヒロインが住んでいる隣のアパートの部屋が見えて、試合が終わって(負けた)主人公が疲れて自分の部屋の明かりを消して覗き見するんですが、そこに主人公の叔父さんから電話がかかってきて、電話で話してるうちにそのやりとりとは関係なく、ヒロインがせっせと着替えする、このショットは…『市民ケーン』で見た技法
 こういうの、アニメでもやってほしい演出の一つなんだけど、うまくやってる作品はどうも見つからない。

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