砂手紙のなりゆきブログ

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演技をしないはずの笠智衆の熱弁にびっくりする(海の花火)

 映画俳優の笠智衆は演技をしない(正確には、映画監督の望んでいる以上の演技をしない)ことで有名な人でした。今見るとリアリティがあるのかないのかさっぱりわからない小津安二郎の映画作品で、彼は映画のセリフを不器用に、しかししっかりと口にしますが、その多くは役者の演技的個性を重要視しないようなものです。
 しかしぼくがびっくりしたのは木下恵介監督の映画『海の花火』(1951年)で熱弁する笠智衆です。
 この映画の中で彼は、田舎の漁業組合代表として水産省(当時)に、廃船取り消しの陳情に行きます。そして次のように語ります。以下音声をテキスト起こししてるんで間違いあるかもしれない。

『わたくしはもう五日間も、朝っから晩までここに詰めっきりでお願いしております。それでもあなたがたは聞いてくださらんと言う。わしゃこのまま帰れません。家屋敷も全部借金のカタに入っております。もう一銭の融通もききません。わしゃ組合を作るために、一人で歩き回って金を集めました。国家のためになることじゃけ、どうぞ一口乗ってくださいと、頭を下げて歩き回りました。あの嵐でこわれた三里の道を、許可を取るために何回、呼子唐津の間を往復したかしれません。それを今になって、船が多すぎるからって、わしたちの苦労を一つも聞いちゃくれようともせず、たーだ、ダメだダメだじゃ、あんまりひどいじゃありませんか。お願いします、どうぞもう一回再審査にかけて、助けてほしい。わたしたちを助けると思って、見殺しにせずにください』

 このあと彼は倒れます。
 これが志村喬ならわからなくもないんですけど、笠智衆ですよ。
 黒澤明監督の『生きる』は翌年の1952年公開だけど、これ見ると何らかの影響を与えたような気になる。
 こういう熱弁ショットの元祖って何だろうな。チャップリン『独裁者』(1941年)ですかね。

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