砂手紙のなりゆきブログ

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メタ構造として楽しむ『鍵泥棒のメソッド』

(今回はタイトル作品のネタバレになっている部分もあるのでご留意ください)
 映画『鍵泥棒のメソッド』(2012年)は、売れない役者の桜井武史(堺雅人)が、凄腕の殺し屋(というか便利屋ですけどね)である山崎信一郎(香川照之)の、事故による記憶喪失をきっかけとして、優雅でゴージャスな生活を楽しむ話で、当然もう一方には自分を桜井武史だと思い込んで、役者として努力して恋愛をする山崎信一郎の話があります。恋人役はゴージャズ系の雑誌編集長で行き遅れで結婚しないといけないことになってる水嶋香苗(広末涼子)がいて、山崎に殺しを依頼した裏社会のボス・工藤純一(荒川良々)も絡んで、いろいろややこしくなります。
 この話のキーとして、今はそんじょそこらの本屋や図書館では見かけられない『メソードへの道』(リー・ストラスバーグ、翻訳は1989年)という、役者の演技について書かれた本が言及されます。リー・ストラスバーグは、映画俳優だったら誰でもその名前ぐらいは知っているニューヨーク・アクターズ・スタジオの演技指導者で、メソッド技法を完璧にマスターしたロバート・デ・ニーロは、『タクシードライバー』(1976年)で共演したジョディ・フォスターに、「普通に会話してたと思ったら途中から映画のシーンのアドリブになってるのでびっくりした」と言われたくらいすごいものです。
 桜井武史はその本を「はじめの7ページしか読んだ形跡がない」と、山崎信一郎に罵られます。山崎は職業柄様々な役を演じることに長けているという設定で、映画の中の映画撮影シーンでも、その迫真の演技力が映画の中の映画監督に評価されますが、桜井はその頼りない演技で、なんとか工藤を騙さなければならないことになり、さんざんなことになります。要するにこの映画には、『メソードへの道』を読んだ人の演技と、読まなかった人の演技が出てきます。玄人の山崎は非常に複雑な人物として描かれ、玄人になれない桜井はやや素人っぽい、アクションがクサい人物として描かれます。
 しかし考えてみると「素人っぽい役」をやるのは実はけっこう大変なんじゃないかと思います。もしこの映画を見てて、なんか堺雅人の演技が香川照之と比べると素人っぽいな、と思ったとしたら、それは多分堺雅人の成功です。
 あとこれ、山崎をハナ肇、桜井を植木等、工藤を谷啓にしても1960年代だったらできそうだな、と思った。水嶋香苗は園マリかな? 映画の中の映画撮影シーンではゲストにザ・タイガースが出る。

 

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