ヒッチコックの映画で一番面白いのは、ハリウッド映画だと『ダイヤルMを廻せ!』(1954年)のような気がする
だいたいヒッチコックというと『サイコ』(1960年)『鳥』(1963年)、それに『めまい』(1958年)か『北北西に進路を取れ』(1959年)あたりがいいということになっていますが、どうも1950年代後半からのヒッチコック映画の劇伴を担当していたバーナード・ハーマンがいささかくどい上、逃げまわったり殺したりする場面が多いため、ちょっと疲れちゃうんですね。
『ダイヤルMを廻せ!』(1954年)のいいところは、あんまりあちこち逃げまわったりしない(ので、あまりうるさい音楽がない)のと、頭のいい刑事が出てくるのと、シナリオがしっかりしているところです。
もともとは飛び出す映画として作られたうえ、シナリオの元になっているものは室内劇なんで、人物の手前に酒を置いたり、会話の間に壺を置いたりしてて「?」と思いますが、一応意味はあるんだな。
この映画の音楽担当はディミトリ・ティオムキンで、ロシアからアメリカに渡った人の子供です。
だいたいロシア革命その他の理由でロシア・東欧から移民してきた人たちの子供が、トーキー時代の西部劇にいろいろ関係してて、多くの西部劇音楽はロシア・東欧の音楽っぽくて、あんまりカントリー・ミュージックっぽくはありません。
西部劇とその音楽を大きく変えたのは1960年代のマカロニ・ウェスタンとエンリオ・モリコーネで、この人も別にカントリー・ミュージックというわけでもない。
主人公が手錠で逃げる話は、ヒッチコックは5本ぐらい作ってますが、その中だと『逃走迷路』(1942年)がいろいろ盛りだくさんで楽しいです。
そう言えばバーナード・ハーマンと別れて、ロンドンでヒッチコックが作った『フレンジー』(1972年)はあまりうるさくなかったけど(音楽はロン・グッドウィンという人)そういうのってキューブリックの『2001年宇宙の旅』(1968年)から学んだ手法なんだろうか。
キューブリックは、こわいシーンの演出に、音を大きくしない(沈黙を多くする)という手法を使ったイメージがあります。
あと、ひどいシーンにステキな音楽。