砂手紙のなりゆきブログ

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「私はお前が嫌いだ」は戦術的セリフ(蒼き鋼のアルペジオ)

 アニメ『蒼き鋼のアルペジオ』(2013年)は、船(軍艦)である女子たちが戦うハーレムアニメです。
 第二次大戦中の軍艦を模した船は、謎の敵「霧」によって、昔から船は女である、という理屈にもとづいて、ある規模以上のものには人間の女子みたいなものが乗っています。というより、船が女子ということになります。ややこしいんだけどしかたない。
 船同士は概念伝達空間という擬似空間で情報交換をすることができ、ヒロインのイオナ(イ401)は潜水艦で、東洋方面第2巡航艦隊旗艦であるコンゴウに「私はお前が嫌いだ」と言われます。
 船(軍艦)であり人間(女子)でもある存在はメンタルモデルと呼ばれ、軍事力的に圧倒的な優位を持ちながらも決定的な勝利をおさめることができない「霧」が人工的に作り上げた、人間に近い思考をするものなのですが、生の人間と接触すると変化がおき、それは危険なことである、と判断されています。
 声優の沼倉愛美(タカオ役の人)は、人間らしさを「自分以外のことについて考えるようになること」と語っています。
 これはたとえば、同型の潜水艦(姉妹)を沈めたあとに涙を流すイオナ、行方不明だったイオナとその船の艦長・千早群像を見つけたときに涙を流すタカオ、などにあらわれています。
 ただ、人間として考えてみると(ぼくは言うまでもなく人間です)、対人相手に何か言うことは、「言われた相手がどう思うか」ということを考えながら言う、ってことなんですよね。
 物語としての三国志が、諸葛孔明が出てからさっぱり面白くなくなるのは、あまりにも諸葛孔明が、相手がどう考えて行動するか、を読みすぎて、それが成功しまくるせいです。
 で、コンゴウの「私はお前が嫌いだ」は、そう言ったら相手がどう判断するかを考えての戦術的な(人間的な)セリフですよね? イオナが十分人間的で、そう言われたらどうやったらその相手と和解できるか、を考えるだろう、という判断。
 この時点でコンゴウがどの程度人間の影響を受けていたのか、あるいはイオナがこの言葉をどう受けとめるか(どの程度人間の影響を受けていたのか)の判断が、うまくわからないのが困ります。
 …ひらたく言えば「嫌いなだけで殺し合うことはしない(命ばかりはお助けを)」
 まあ、あんまりそういう経験はぼく自身にはないんですが、漫画なんかで「あんたなんか大嫌い」と言われた側は、なんとか好きになってもらうように努力しますし、言った側は「なんであんなこと言っちゃったんだろう」って反省することになっています。
 なお、より上の命令で動いているイ400とイ402は、コンゴウの感情を人間と接触して汚染されていると判断し、拘束しますが、それを振り切ったコンゴウは、決戦の前の最後の概念伝達空間で、イオナとその仲間である船に「お前たちを殲滅する」と宣言します。

 …イオナ以外の船は、別に好きでも嫌いでもないんだな。