砂手紙のなりゆきブログ

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だいたい半日ぐらいで描いた手塚治虫の連載漫画1回分

 橋本一郎鉄腕アトムの歌が聞こえる』(少年画報社、2015年)は、当初朝日ソノラマという会社の人間で、アニメのソノシート(安いプラスチックのレコード)を作る関係で手塚治虫と面識を持ち、オバQ音頭は特に大ヒットだった編集者で、新書判のサンコミックスを出したり、怪獣図鑑を出したりしましたが、会社に組合ができて派手に金を使えなくなったのでやめて、いろいろ紆余曲折のあげく少年画報社の編集者になり、週刊少年キング手塚治虫に『アポロの歌』を描かせました。
 橋本一郎はこの本の中で、当時20ページだった原稿をどのようにしてもらっていたのかについて述べていますので、以下に要約して書いてみます。
 印刷所の締め切りは毎週日曜日の午前5時ジャストに、板橋区志村の凸版印刷板橋工場の正門に届ける、という設定。もうこのあたりからすでに普通の人と違ってる。
 当時は、印刷所に収める前に製版所でジンク版というものを作ってもらって、それから紙型を取って、輪転機にかける版を作るという、とても面倒なものでした。
 で、手塚治虫は土曜日の午後5時ごろからネーム(絵コンテ)に取りかかります。その前に編集者と打ち合わせをすることもありますが、平均40分、遅くても50分ぐらいでネームをあげて、それを担当編集者が写して、セリフなどを写植の会社に頼みます。このあたりになると常駐編集者のほかに、使い走りの編集者が複数つくことになります。
 下絵と主線は1ページあたり遅くても20分ぐらいで完成させます。20ページなら6時間ぐらいです。
 それと平行して、アシスタントがどんどん原稿を完成させていき、使い走りの編集者は手塚治虫の原稿チェックが終わったものを少しずつ製版所に持っていきます(まとめて持っていったら時間に間に合わない)。また、セリフの直しなどもあるので写植の手配もします。印刷所は朝から仕事ですが、それ以外の関係者は土曜日の夜なべ仕事になります。
 夜中の11時ぐらいになると主線が終わるので、先生はマグロ鮨二人前を食べて、残りの原稿を総出で仕上げ(原稿をコマごとにバラバラにして仕上げたものを貼りあわせて完成することもあります)、担当編集者は最後の原稿を持って製版所に行き、午前4時ごろ製版が終わるので、それを持ってタクシーで板橋に向かいます。まあ道路はすいてるだろうけど、電車は動いてないのでしょうがない。
 だいたい真夜中ぐらいに最後の原稿が完成するといいんですが、午前1時になるとすべての進行が遅くなるので、印刷所が怒ります。
 そういう生活が毎週続き、ゴールデンウィークとお盆休みと年末年始の休みのときはさらに進行が早くなければいけません。
 手塚治虫『アポロの歌』は、1970年4月から11月にかけて連載されたので、年末年始の進行は関係ありませんでした。