砂手紙のなりゆきブログ

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物語と曖昧な語り手のややこしい関係(師弟決死隊)

 二十世紀になって物語は、物語の中に「信頼できない語り手」を置くという技術によって、大変ややこしいことになりました。
 昔の物語は、語り手が嘘を言っているか真実を言っているか、あるいは嘘を交えた真実を言っているかがそれなりにわかるようになっていました。
 つまり、ここまでは本当かもしれないが、ここから先は嘘だろうとか、そんな感じですね。
 あるいは、全部嘘だろうけど、別の物語を参考にしているんだろうな、とか。
 実際のできごとなら、複数の証言や第三者に確認できる資料などによって、まあだいたい似たようなことが起きたんだろうという確証は持てます。
 東日本大震災津波がどこまで来たかとか、広島にはまあ原爆は落ちただろうな、ということは、津波の跡とか当時の記録でわかります。
 編集者にひどい目にあった創作者(作家・漫画家)や、店にひどい目にあったと言っている客の話は、ネットで流れている限りでは、編集者・店の人の話、もしくは第三者による目撃証言、あるいは録音その他の記録で「だいたいこんなことが本当はあったんだろうな」と推定ができます。
 今、考えこんでいるのは「師弟決死隊」(赤川武助)という短編です。『『少年倶楽部』熱血・痛快・時代短篇選』(2015年、講談社)に収録されています。
 ここでは、いじめられていた村瀬という少年が、小学校時代の昔、みんなで飼っていた兎小屋の扉を閉め忘れたため野犬に襲われて全滅したということにされたのですが、当時の先生だった杉浦(現在は軍隊で村瀬の上官)は、それは夜学に来た村の青年だった、といううわさを聞きこんで、学校に来なくなった村瀬のためにお詫びの手紙を書き、他の小学生のみんなには「村瀬をいじめないでくれ」と言い残して転任します。
 その手紙と先生の言葉もあって、出征時には小学校時代の同級生から寄せ書きの日章旗をもらった、という村瀬ですが、なんと、扉を閉め忘れたのはぼくだ、と、部隊が突撃する直前に杉浦に告白します。
 そうすると、杉浦先生が言っている(人から聞いた)ことが本当なのか、村瀬が言っていることが本当なのかわからなくなってしまう、というのが困ったところです。
 いい話なら嘘をついてもいいんだ、ということで、当時の少年は納得してたんですかね。

 本日は945文字です。

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