すべてのアメリカ文化の全盛期は1930年代から1940年代にかけて(ミュージカル映画事典)
重木昭信『ミュージカル映画事典』(2016年、平凡社)は、世界のあらゆるミュージカル映画に言及している驚異の書物です。あとがきで著者は以下のように述べています。
『本書で扱った3200本の作品に対して、半分ぐらいは見直そうと考えて、年間500本のペースで見ることにした。そのためには、週に10本ほど見る必要がある。そこで、好きなワインも控えて、ひたすら画面と向き合った。』
映画批評を仕事にしている人ならともかく、どうも普通の会社勤め&経営をしていた人(会社員→役員→社長→顧問、という人)なんでけっこう大変だったろうと思います。
この映画の冒頭では、次のように述べられています。
『この本に記した作品群の数からもわかるとおり、ミュージカル映画の全盛期というのは1930年代から40年代にかけてであり、戦後の50年代はMGMミュージカルの全盛期ではありながら、テレビ放送の普及とともに映画産業の衰退が始まった時期だ。さらに大型のミュージカル作品が増えた1960年代以降は、ミュージカル映画が徐々に力を失っていった時期のようにも思えるが、日本で紹介されるミュージカル映画は、こうした近年の作品が中心であることに違和感を覚えてきた。』
1960年代を「近年」と言われてはたまったもんじゃないんですが、まあそういう人です(1951年生まれ)。
この人のテキストは、言いたいことがクリアで内容が面白くて、文章もうまいと思うんですが、問題はこの本の中であまり高くされていない映画をあまり見る気にならなくさせることです。
たとえば、こんな感じ。p414
『モーリー・イエストンが作曲した「NINE」Nine(2009)は、1982年の舞台作品の映画化で、イタリアのフェリーニ監督の「8 1/2」のミュージカル版。フェリーニ監督はいかにも映画的で、舞台ミュージカルはイタリアの温泉施設をイメージした白いタイルを基調とした舞台的な作品だったので、映画版の作り方が注目されたが、イタリアを強調し過ぎた中途半端な仕上がりとなった。』
あーもう、この映画見ようと思ってたのに。