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砂手紙のなりゆきブログ

KindleDPで本を出しました。Kindleが読めるデバイスで「砂手紙」を検索してください。過去テキストの一覧はこちら→http://d.hatena.ne.jp/sandletter/20120201/p1

ところで皆さんはドストエフスキー『罪と罰』の冒頭を覚えていますか

 多くの人が読まれたであろう新潮文庫の工藤精一郎訳ではこうなっていたと思います。

『七月はじめの酷暑のころのある日の夕暮れ近く、一人の青年が、小部屋を借りているS横町のある建物の門をふらりと出て、思いまようらしく、のろのろと、K橋のほうへ歩きだした。』

 で、亀山郁夫その他の指摘によるとこれは誤訳です。
 つまり、「小部屋を借りている」ではなくて「借家人から小部屋を又借りしている」なんですな。
 この借家人というのはプラスコーヴィヤ未亡人で、その娘と主人公のラスコーリニコフは婚約していたのですが、娘のほうは病気で死んだという非常に重要な伏線になっています。
 さらに、原典では「ある建物の門をふらりと」という表現もない。
 ついでに、この日は1865年7月7日。
 横町と橋の名前はストリャールヌイ横町(通り)とコクーシキン橋。
 ストリャールヌイというのは「大工」という意味で、日本語に訳すなら「大工町」ですかね。
 金貸しの老婆が住んでいたのは、江川卓の解説によると「ストーリャールヌイ横町の下宿を出てコクーシキン橋を渡り、いったんサドーワヤ通りに出て、ユスーポフ公園の前あたりをエカテリンゴフ通りに折れる経路を辿ると730歩であるらしい」だそうです。
 で、「アートの力 POWER of ART」というブログの、2014年10月29日、「現地ガイドと巡る、ラスコーリニコフの足あと。」というところを見ると、ラスコーリニコフの屋根裏部屋も、金貸しの老婆のアパートも未だにサンクトペテルブルクに残ってる!
 なお「亀山郁夫 誤訳」で検索するといろいろ面白いものが引っかかりますが、これはぼくのブログを読んだ人たちだけの秘密にしておいてください。
 今回は「清水正 研究室 on the web」の「工藤精一郎訳『罪と罰』(新潮文庫)の二つの問題場面」(2008年4月28日~5月8日)というテキストをだいぶ参考にしました。