砂手紙のなりゆきブログ

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麻生吉郎という編集者

 阿川弘之は、「一編集者の死」という随筆で、次のように書いています。(初出「波」1973(昭和48)年9月号。引用は阿川弘之全集16巻より、かなづかいは引用のまま)

『麻生吉郎といふ一人の編集者が、若くして亡くなつた。
(中略)
 彼は「週刊新潮」のデスクで、出版社系週刊誌の嚆矢となつたこの雑誌の、創刊に参画した一人である。
(中略)
 九州の麻生財閥の一族だつたから、別府かどこかの持ち土地で、温泉の湯気がポッと上る度に麻生のふところには金がころがりこむといふ伝説があつて、
「あいつはいいんだ」
 と、私たちは金銭の上でも全く対等のつき合ひをしていた。
(中略)
 文学作品では、柴田錬三郎の「眠狂四郎」。「狂四郎」があれだけ長期にわたつて書きつがれたのは、柴田氏の麻生に対する並々ならぬ親愛の情からで、二人は作家と編集者といふ間柄をはるかに越えてゐた。」

 名前からおわかりのとおり、麻生吉郎は吉田茂麻生太郎・元総理の一族の者で、当然ながらSF翻訳家・作家の野田宏一郎とも親戚です。でも、その人についてネットで言及している編集者は、元集英社の島地勝彦ぐらいですね。
 麻生吉郎は、売れっ子でも何でもなかった当時の柴田錬三郎にいきなり週刊誌連載を依頼し、眠狂四郎という主人公の名前と、円月殺法という剣法を考えさせました。
 考えた人の名前は残るけど、考えさせた人の名前は残らないものですなあ。
 森鴎外に「舞姫」を書かせた人ぐらいはわかりますけどね(民友社社長の徳富蘇峰)。じゃあ、田山花袋に「布団」を書かせた人(編集者)は誰でしょう。江戸川乱歩に『怪人二十面相』を書かせた人、ドイルにホームズを書かせた人は。続きを書いてください、と言った人は。