砂手紙のなりゆきブログ

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ヒューマン・インタレスト・ストーリーってキャラ萌えアニメ?(小説の分類と菊池寛)

 丸谷才一『男ごころ』に「ヒューマン・インタレスト」って短文があって、小林秀雄が引用した、菊池寛の語として語られてるんですが、丸谷才一はそれを「ゴシップ小説」なんじゃないか、って言ってます。でもまぁ、注釈的につけられてるドナルド・キーン氏の説明とか、ウィキペディア英語版の説明なんか読むと、「人情ばなし」かなぁ、とか思います。要するに、「事件」ではなくて、その背景にある「人間」に興味を持たせる話。東日本大震災後は、ドキュメンタリーでもそういう「ヒューマン・インタレスト・ストーリー」は見ることが多かったんじゃないでしょうか。ていうかまぁ、だいたいのドキュメンタリーがその傾向ですかね。「花柳小説」「社交界小説」というのは丸谷才一の解釈のしすぎだと思います。
 引用元の菊池寛『文藝往来』は、大正9年刊行のものが国会図書館のデジタルライブラリーで確認できるので見てみてください。コマ番号33-34(50-52ページ)です。
 ところがですね、丸谷才一が引用している「小説の分類」と、デジタルライブラリーのとは違うんだなぁ。
 で、その大もとの「アッシュマンという米国の文学者」の「小説の分類」ってのを、「ashman type story」とかで検索したんですが、見当たらないんですよ、とほほ。
 とりあえず、丸谷才一は、菊池寛が引用しているアッシュマンの分類を以下のように紹介しています(どうにもややこしいね)。
1・地方色小説(ローカルカラストリイズ)小説の事件に充分地方色を含ませた小説。
2・劇的興味と手法との小説。ポーの黒猫、モウパサンの頸飾り、ガルシンの信号、ゾラの水車小屋襲撃などが例に引かれている。
3・性格描写小説
4・解剖的小説(アナリティカルストリイズ)
5・人間的興味の小説(ヒューマンインタレストストリイズ)
 と、丸谷才一の本ではここまでですが、国会図書館菊池寛の本はさらに、
6・幻想と感情の小説(ファンシィセンチメントストリイズ)
7・驚異小説(サァプライズストリイズ)
8・ヒュモラス小説
9・家庭生活の小説(ドメスチックラインストリイズ)
 がありました。
 まぁ6はSFとかファンタジーかな? 9は多分チェーホフみたいなの。8もなんとなくわかる。2と7はあまり区別がつかない。「驚異小説」ってなってるけど、多分「オチがある小説」って意味な気がする。地方色小説は今の日本ではあまりメジャーじゃないですね。中上健次みたいなのかなぁ。
 ただ、キャラ萌え小説&アニメは3に属するのか5に属するのかちょっと不明。戦うキャラ萌えは3、日常系キャラ萌えは5なんじゃないかな、と漠然と思っておきます。
 あと何となくこの小説の分類法、「短編小説」に近い感じがしますね。長編小説で「サァプライズストリイズ」ってあまり聞かないし、「劇的興味と手法との小説」で挙げられてる4作品はどれも短編です。
 ぐだぐだとネットで調べ物してたら、大江健三郎の講演「菊池寛と人間的興味(ヒューマン・インタレスト)の小説」っていうのが、どうも文學界1992年8月号に掲載されてるらしいんだけど、これ、今のところ単行本に入ってないんでどうやって読もう。