砂手紙のなりゆきブログ

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夏目漱石『坊っちゃん』と青空文庫の問題

 夏目漱石という作家がいます。お札にもなっているくらいなので名前ぐらいは知っているかもしれないし、『吾輩は猫である』とか『坊っちゃん』ぐらいは読んだことある人多いと思います。
 さて、そのタイトルなんですが、どう表記するのが正しいか、ほとんどの人が知らない。
・坊ちゃん
・坊つちやん
坊っちゃん
 全部間違いです。
 正確には『坊っちやん』。嘘だと思うならネットで公開されている夏目漱石の原稿を見てみるといいです。「っ」が小さくて「ち」「や」「ん」が同じ大きさ。
 現在出ている本では、集英社新書の『直筆で読む「坊っちやん」』だけがその表記を採用しています。
 冒頭の文章、日本中の著作権が切れたテキストを収めている青空文庫というサイトでは、

 親譲(おやゆず)りの無鉄砲(むてっぽう)で小供の時から損ばかりしている。小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて一週間ほど腰(こし)を抜(ぬ)かした事がある。

 となっているけど、これも間違い。「損ばかりして居る」と漢字になってます。「小学校に居る」の「居る」があってなんでこの校正者は気がつかないんですかね。
 ちなみに岩波文庫の旧版はどちらも「居る」、新版は「いる」になってます。
 生原稿で確認すると、どちらも「居る」です。
 あと、作中での「こども」も、「小供」と「子供」の二つがあって、それをどういう風に使っているかは、原稿と照らし合わせて校正・校閲しなければいけない。
 つまりそういった作業にも「著作権」というものが発生すると思っていいと思います。
 翻訳したら翻訳者に著作権が発生するレベルで。
 第二次大戦中の日本の軍艦写真(写真そのものには著作権は消滅しています)に、彩色したら著作権が発生するレベルで。
 青空文庫の『坊っちゃん』、使用されているテキストは「1987(昭和62)年10月27日」の「夏目漱石全集」とのことですが、これは厳密には著作権法違反です。
 テキストの元版は生原稿か、公表されて(出版されて)50年以上経っているものを使用すべきでしょう。
 H.P.ラヴクラフトなんて、もうとっくに本人の著作権は消滅しているのに、校正・校閲のS.T.ヨシっていう人がいて、ちょっとややこしいことになってる(彼は1958年生まれなんで当分著作権は切れません)。