砂手紙のなりゆきブログ

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校正の問題と50年間編集者の誰も気がつかなかった「東海道戦争」(筒井康隆)のミスについて

 校正の場合で面倒くさいのは、どれを元テキストにして手を入れるか、ということです。
 一番いいのは、作家・ライターが生きている状態で、元原稿(昔は手書きだったけど、今は多分どの作家・ライターもワープロ使ってる)をチェックしながら、文章の疑問点を確認することなんですが、死んでいる人だとそれは無理ですね。
 死んだ人の校正で、ちょっと駄目っぽいのが初出が雑誌の場合、その雑誌を元にして校正する、という方法。単行本化する際に赤字入れない作家・ライター・校正者は多分いないんじゃないかと思います。締め切りに間に合わせるために適当に書いた雑誌のテキストが使えるわけがない。
 比較的ましなのが、生きている間に出た最後の本を元にする方法。生きている間に出た全集本とかですね。安部公房三島由紀夫の全集は死んでから出てるので信用できない。
 死んだ人の校正で一番いいのは、「雑誌掲載時(初出時)」と「初単行本時」と「生きている間に出た最後の本」の3つを並べて確認することです。それでも、どのテキストを採用するか、というのは難しいところで、『黒死館殺人事件』とか江戸川乱歩の作品とかは異本がいくつもあって、話の内容にすごく関係あるものは少ないので、読者のほうはあきらめて、適当なのを読みます。
 筒井康隆「東海道戦争」は雑誌SFマガジン昭和40年(1965年)7月号初出の短編で、東西に分かれた自衛隊を中心にした戦闘集団が「擬似イベントとしての戦争」をおこなう、というSFです。その中で使われている軍事用語・兵器などは当時の自衛隊の第2次防衛力整備計画に基づいた緻密なもので、現代の読者でも楽しめます。ここで使われている兵器に関して興味をもった人は、ぼくの「筒井康隆「東海道戦争」(1965年)に出てくる自衛隊の兵器」というTogetterまとめに目を通すといいです。
 この短編は雑誌掲載後、1965年にハヤカワSFシリーズ(新書版。俗にいう「銀背」)として初単行本化され、その後数回別の版が出版されましたが、現在比較的入手しやすいのは、図書館利用なら筒井康隆全集の1巻(1983年)、文庫購入だと中公文庫(1994年)でしょうか。
 ただ、これらの異本でも、

 それから高良台演習場の一中隊が、関西本線に沿った国道百六十三号線を、やはり応援で伊賀上野に向かう予定です。まだ来ていませんが、芦屋基地の警備補給隊もやってきます。

 という部分、直ってないみたいなんですよね。
 どこが問題かというと、「警備補給隊」。自衛隊には昔も今も、存在するのは「整備補給隊」なんです。編集者・校正者自衛隊出身の人はあまりいないだろうから仕方ないけど、自衛隊と関係あった読者はたぶんみんな「?」とか思ってる。
 ということで、筒井康隆さんが亡くならないうちに、どなたか親しい編集者が確認して、ちゃんとした本を出してもらえないでしょうか。亡くなってからでは「注釈」の形でしか言及ができなくなります。