映画の中の昭和の臭い(夫婦善哉)
映画『夫婦善哉』(1955年)は、勘当された大阪の大商店の息子(維康柳吉)の役を森繁久彌、彼と一緒に一家をかまえる水商売の女性(蝶子)役を淡島千景が演じる大阪弁映画です。
話は貧乏と悲惨さが濃厚に映画全体に漂う2時間の非痛快娯楽映画ですがそんなに退屈するところはありません。
この話の中で、柳吉が蝶子の実家(揚げ物屋)に行き、出された揚げ物を食べるシーンがありますが、それを縁側で食べようとした柳吉が、隣に便所があるのに気づき、「臭い便所やな、食われへん」といいます。
映画で表現できるものは視覚・聴覚に属するものだけなんで、臭いや味や触り心地というのは滅多に意識として出てこないんですが、昭和のトイレ、というか便所というのは基本和風のくみ取り式便所なので、ホテルや団地で暮らしている人以外は、かなりうんこ臭い生活を送っていたのでは、と思いました。
21世紀視点での昭和の映画的再現では、タバコとトイレとドブのにおい、それに女性の化粧のにおいその他もろもろ、欠け落ちてしまう難儀なものがありそうです。新聞社の記者がいるところや職員室など、仕事場が紫煙で霞んでいる風景なんて出せないですよ。
小津安二郎の原節子も、使用しているトイレは多分和風くみ取り式。『東京物語』は団地というかアパート暮らしだったので違うかな。
駅を含む公共のトイレがきれいになったのは、平成になってからというよりむしろ21世紀になってからですかね。