砂手紙のなりゆきブログ

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和田誠が『天国への階段』に出てくる男優ロバート・クートにたどりつくまで

 和田誠山田宏一の映画に関する対談『たかが映画じゃないか』(文藝春秋、1978年)を読んでます。
 なんでこんなに、中学生のときに見た(だけの?)映画を覚えていられるの、と不思議な気がします。ぼくなんてきのう見た映画だってだいたい忘れてる。覚えるつもりで見てても忘れるのに、ちゃんど記憶できる人は本当にすごいです。
 今のところ圧倒的にすごいのは『虹を掴む男』(1947年)のあらすじ語りで、「で、このシーンで『ポケタポケタポケタ』ってなんて、ポケットブック出版のアイデアになる」と、落語でも聞いてる、というか読んでるみたいな気になります。まだ見てないけど、たぶん実際の映画より和田誠の話のほうが面白い気がする。
 ちょっと『天国への階段』(1946年)のやつを引用してみます。これ、日本公開が1950年なんで、1936年生まれの和田さんは中学生かな。
 まず、デヴィッド・ニヴンが飛行機乗りで、相棒のロバート・クートに関してなんですが、

『それでロバート・クートって役者がね…ロバート・クートはジーン・ケリーの「三銃士」の、三銃士の一人をやった。ヴァン・ヘフリン、ギグ・ヤング、ロバート・クートというのが、アトス、アラミス、ポルトスの三銃士になってる。ロバート・クートは「マイ・フェア・レディ」の舞台でピッカリング、映画ではウィルフレッド・ハイド・ホワイトがやった役をやった人。ウィルフレッド・ハイド・ホワイトというのは「第三の男」でさ、ウィーンの文化なんとかの役員で、ほら、強引にジョセフ・コットン連れてって講演させちゃう。コットンは三文文士だから、影響された作家は、と訊かれて、ゼイン・グレイって言うんだよね。ゼイン・グレイは西部作家で、「西部魂」を書いた人。そうすると、ウィルフレッド・ハイド・ホワイトが慌てて、いや、先生は冗談で言ったんです、ってとりつくろうんだよ。すると変な質問者がいてさ、ジェームズ・ジョイスをどう位置づけますか、なんて訊くと、ジョイスなんてぜんぜんわかんなくて、ジョセフ・コットンが汗かいちゃう。そのときの司会をやった人がウィルフレッド・ハイド・ホワイト。で、これが、「マイ・フェア・レディ」の映画版では、ヘンリー・ヒギンズの相棒で、一緒に言語学を研究しているおじさん。それを舞台ではロバート・クートって役者がやった。そのロバート・クートがさ(笑)、「天国の階段」のファースト・シーンで死んでんだよ』

 映画『三銃士』(1948年)でのロバート・クートはポルトスではなくアラミス役でした。
 ピッカリング(大佐)は日本では増田喜頓が1963年から1990年まで(ずっとじゃないけど)舞台で演じました。
 ウィルフレッド・ハイド=ホワイト(ハイド=ホワイトというのが苗字らしいです)が主催する講演のテーマは、最初は「現代小説における宗教の危機について」でした。
 ゼイン・グレイは20世紀初頭に活躍したアメリカの通俗作家ですが、これはぼくの想像だと脚本を担当したグレアム・グリーンが入れたアイロニーですかね。グレイもグリーンも英語のスペルは色のグレイ・グリーンとは少し違います。
 こんなことしてると本当に本1冊読むのに1週間かかる。

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 真ん中の立ってしゃべってる人がウィルフレッド・ハイド=ホワイト。