砂手紙のなりゆきブログ

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ヒッチコックの映画は劇伴を抜きで見よう(バーナード・ハーマン)

 ヒッチコック監督の1950年代後半から1960年代前半にかけての名作は、バーナード・ハーマンが映画音楽を担当しています。具体的には『ハリーの災難』(1955年)から『マーニー』(1964年)までの8本で、『引き裂かれたカーテン』(1966年)の映画音楽で意見が対立して、その作品以降は別行動になっています。
 ヒッチコックの映画は各場面での登場人物のアクションがクリア(今の視点で見ると少し古くさい)なのが特徴で、サスペンス映画としてあいまいなキャラ設定・行動の動機づけがない(あいまいな人物はクリアにあいまいに描かれます)、素人にもわかりやすい演出になっています。要するに映像のつなぎと人物の動作・セリフだけでも楽しめる映画です。
 ところがもう、バーナード・ハーマンの音楽ときたら、それを変な方向で盛り上げるというか「わかりやすさをさらに特出させる」という、1960年代のメイクの濃い女優みたいなありさまになっています。そこで現代音楽風の弦楽器ヒュンとか入れなくても、見ればわかりますから! 風景やバスルームでの殺人シーンにそんなにうるさい音楽いらないですから! と心の中で思う。
 あまりのことに、音を消して字幕(日本語字幕)だけで見てみたら、これがすごい楽しい。これはいい。この方法でヒッチコック作品もう一度見よう。
 ところがですね、映像を見ないでバーナード・ハーマンの音楽と登場人物のセリフだけを聞いてても、これはこれでいいんですよ。要するに、彼の音楽はヒッチコックの映画に集中する気を起こさせない。
 日本には伊福部昭早坂文雄という映画音楽の達人がいて本当によかったです。
 フランソワ・トリュフォーの映画『華氏451』(1966年)と『黒衣の花嫁』(1968年)の評価が今イチ低いのは音楽のせいじゃないですよね?
 そんなバーナード・ハーマンですが、1976年の映画『愛のメモリー』『タクシードライバー』は悪くはありません。B級ホラー映画で似たような音楽使われてたのを見て悟ったのか。『タクシードライバー』の音楽はジャズっぽいんだけど、これは演奏者のトム・スコットがちゃんと仕事してるからかな。