砂手紙のなりゆきブログ

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伊藤典夫新訳の『華氏451度』(黄昏乙女×アムネジア)

 半世紀ぶりぐらいで「火の色は美しかった」ではじまらないレイ・ブラッドベリ華氏451度』の伊藤典夫新訳が出ました。新訳は「火を燃やすのは楽しかった」、原文だと「It was a pleasure to burn.」。「燃やすってヤバい」とか変に現代語訳すると半世紀もしないうちに古くなる。
 ぼくの記憶ではブラッドベリはいつも小笠原豊樹岩田宏)の翻訳なんですが、この本の前の訳者は宇野利泰で、下訳でも使ったんだろう、とかひどいことあとがきで書いてあります。昔の翻訳は新しい翻訳が出ると古いのもう読めなくなっちゃうんですかね。
 個人的には、伊藤典夫訳のJ.G.バラード「内宇宙への道はどれか?」の中で「アムネジア」の訳に使われてる「健忘症」というのが気になってしかたない。この有名な奴。

『もし誰も書かなければ、わたしが書くつもりでいるのだが、最初の真のSF小説とは、健忘症の男が浜辺に寝ころび、錆びた自転車の車輪をながめながら、自分とそれとの関係のなかにある絶対的な本質をつかもうとする、そんな話になるはずだ。』

「健忘の「健」は、甚だの意である」と書いてあるけど、今だと普通にアムネジアで通じるのかな。記憶障害でも記憶喪失でもない(もっと幅の広い)意味の語であるようではあります。