砂手紙のなりゆきブログ

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人物が会話するときのイタリア映画的解決法(ビッグ・ガン)

 映画『ビッグ・ガン』(1973年)は、個人的には三隅研次なみに過小評価されてる(セルジオ・レオーネの名声のみが稲垣浩なみに高い)と思われる、マカロニ・ウェスタンの監督であるドゥッチョ・テッサリのギャング映画です。
 殺し屋の役を演じるのはアラン・ドロンで、話のあらすじはネタバレになりそうなんで略しますが、「あいまいな男(何でもしでかしそうな男)」としての演技はすばらしく、市川雷蔵主演の映画と比べたくなってしまいます。
 子供の誕生日の夜、ふたりを殺して、それから何日か後の朝、主人公と妻と子供が車のところにいく場面が、実に美しい動線(ライン)で作られ、そこまでが20分で、そこからあとの1時間25分は実にハリウッド的でない映像演出が楽しめます。
 その前に主人公がボスに、もう引退する、という会話をする場面からして、単純に話しているふたりの切り返し演出じゃなくて、奥行きを出したり手前に何か置いたり鏡面を写したりして、ええっ、こんな凡庸な会話でも、演出でこうまで美しくなるの、という感じです(ここらへんは三隅研次がすごくうまいんで、機会があったら見てみてください)。
 で、ボスの子分(かな?)と会話のシーン。
・横並びで会話
・子分が前のほう(左)に動いてコートをかけ、同一画面上でボスが奥から話す
・子分が奥のほう(右)に動いて、ボスと前後で会話
☆ボスが奥(左)のほうに動いて消えて、子分がフレーム外のボスに左のほうを向いて話す
・ボスが右を向いて反論する
・画面左のほうにボスが歩いていくと子分が写って、その反論に答える
・ボスが画面の奥(左)に行ってドアを閉め、自分の席(画面の右側)につく
☆子分はタバコに火をつけて正面(観客側)を向いて話し、同一画面上の奥(右側)のボスを振り返って会話する
 こういう、画面の左右と前後(奥行き)、ふたりの人物をどう並べるか、というのは実によくできたアニメの演出っぽいのです。特に☆印をつけたところなんて、これは映像で何かを表現しようと思っている人間なら「盗める、というかむしろ盗む」ぐらいの勢いであってもいい。
 だいたい、凡庸な昔の映画監督はふたりの人物の会話を撮る場合は、人物を凡庸に横に並べて撮り、凡庸な今の監督は肩ナメ・切り返しで撮るという演出になっております。
 しかし、イタリア映画がすごいのかドゥッチョ・テッサリがすごいのかは、これ見ただけでは不明なんでもう少しマカロニ・ウェスタンを見よう。