特別お題「青春の一冊」(寺山修司青春歌集)
特別お題「青春の一冊」 with P+D MAGAZINE
ぼくらの時代には、構造主義とかポストモダニズムのせいで、小説や思想が非常にシニカルなものになっていて、面白いものを探そうと思うと少し古いものを読むしかなかったのです。
吉本隆明から野間宏、埴谷雄高といった第一次戦後派、そこからサルトルやカミュといった実存主義の小説と思想を、なんて下手くそな翻訳なんだろう、と思いながら読みました(その後、ヌーボー・ロマンという、さらにわからないものを読んだので、翻訳なんてどうでもいい、という考えに至ります)。
SFもミステリーも、娯楽小説のいちジャンルとして読んだことは読んだんですが、どうもこれといって青春に結びつけられるような一冊がない。同時代・同世代の作家がいない割には、いい感じに古びてもいない、という微妙な時期であります。
寺山修司の歌集は、割と演劇的な嘘の立て具合が、歌舞伎のセリフっぽくて、接したのはぼくの青春からだいぶ外れた年のころで、桜桃忌よりチェホフ祭だよな、とか、学をあざむくためにハイネ読んだりしたわけです。
今でも新刊は、カバーを変えて角川文庫で並んでいるのですが、その文庫の白黒の文字は、まだテレビがカラーでなかった頃、昭和30年代末(別に1960年代はじめでもいいんですが、気分的に)のようで、東北のいち地方の青年による、不思議な謎と記憶が封印されているのです。