砂手紙のなりゆきブログ

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鳩時計と鳩サブレ(市民ケーン)

 鳩サブレは東京名物(みやげ)じゃなくて鎌倉名物です。

「イタリアではボルジア家30年間の圧政下は戦火・恐怖・殺人・流血の時代だったが、ミケランジェロダ・ヴィンチの偉大なルネサンスを誕生させた。
 片やスイスはどうだ? 麗しい友愛精神の下、500年にわたる民主主義と平和が産み出したものは何だと思う? 鳩時計だ!」

大日本帝国は歴代の天皇の圧政下、戦火・恐怖・殺人・流血の時代だったが、ゼロ戦や戦艦大和などの偉大な兵器を誕生させた。
 戦後日本はどうだ? 新憲法の下、60年余にわたる民主主義と平和が産み出したものは何だと思う? 鳩サブレだ!」

 前者は映画『第三の男』、魅力的なダーティ・ヒーローであるハリー・ライム(オーソン・ウェルズ)によるセリフで、後者はぼくが適当に作りました(あまり真面目に考えないでください)。
 ちなみに鳩サブレは戦前からあるんで、戦後だと…うなぎパイかな?
 実際に映画の中で言われたのは「鳩時計」ではなくて「The cuckoo clock(カッコー時計)」で、おまけにそれはドイツのバーデン=ヴュルテンベルク州シュヴァルツヴァルトの名産です。
 ドイツ南部が近代工業の時代になったのはイギリスと比べるとかなり遅く、日本と同じく土地を継承できない農家の次男以下の労働者が従事したのはほぼ19世紀後半からで、そのため鉄鋼・精密機械といった重工業からはじまりました。
 神聖ローマ帝国の崩壊からナポレオン戦争を経てドイツ連邦共和国に至るまでのドイツの諸王国の歴史はもうぐしゃぐしゃで、それ語ってるだけで半年ぐらいかかります。イタリアとかドイツの人たちはどうやって歴史を勉強しているのか。
 それはともかく、19世紀後半のバーデン大公国の第6代大公フリードリヒ1世(頭がおかしかったので有名なルートヴィヒ2世の弟です)が特許周辺の法整備を含む近代化に熱心だったため、その国は急速にいろいろ近代的なものの生産・供給拠点になりました。
 バーデン=ヴュルテンベルク州に本社がある会社としては、年末に掃除をしようと思ってその手の店に行くと並んでいるなんか黄色い製品のキルヒャー社が現在では有名です。
 隣のバイエルン州には映画撮影機材のメーカーとして著名なアーノルド&リヒター社(商品名は昔はアリフレックスという冴えない名前でした)があり、アメリカ映画の主流だったミッチェル(『市民ケーン』でオーソン・ウェルズにカメラ指導したので有名な撮影監督のグレッグ・トーランドによるパン・フォーカス映像の多くはミッチエルBNCで撮影されました)は、セット撮影はともかくロケなどではその使い勝手の悪さから次第にシェアを失いました。
 アリフレックスの撮影機を持っている映画監督の写真としては、キューブリックゴダールなど、ヨーロッパ系の監督が知られているようであります。
 1937年、ナチス政権真っ最中のドイツで、アーノルド&リヒター社は世界初のレフレックスミラーシャッター(何が写っているか確認しながら撮れる装置)装備のアリフレックス35を世に出しました。
 近代工業製品として作られたものの偉大さと、ルネサンス時代にほぼ職人の手作りとして作られた芸術とは、比較しても意味ないんじゃないかな、と、昔から『第三の男』のハリー・ライムのセリフには疑問を持っていたのでした。
(なんか別の資料読んだら続けます)