櫂は三年櫓は三月(らくだ)
落語『らくだ』は、長屋でひどく評判の悪い男・らくだがフグを食べて死んじゃって、その兄貴分と出入りの紙屑屋がしぶと(死人)の「かんかん踊り」でもってシブチンの大家その他からいろいろ葬礼(そうれん)の金と酒などを仕入れる話です。
これは上方では1時間、東京では30分ほどのネタで、紙屑屋が酒を飲みながらだんだん酔って、兄貴分に対する態度が豹変するところが面白いということになっています。
さて、その酒は煮しめその他と一緒に大家さんからもらうわけですが、「悪いんじゃご免こうむる」と言ってどのくらいの酒をもらったと思いますか。
一升? 二升? いやいや。なんと三升。
でもってそれを飲みながら、紙屑屋がこんな話をします。
自分も昔はそれなりに、表通りに店を出していて、丁稚のニ、三人も置いていた男で、かみさんもいいところからもらって娘も一人いたんだけど、裏長屋でこんな商いをすることになったのも、みんな酒のせい。最初のかみさんは貧乏暮らしに慣れてなくて、風邪で三日も床についたら死んじゃった。娘を置いて商売に出るんだけど、帰るのをずっと待ってて、家に帰って「おとっちゃん、かえって来たのん?」というその子の手を触ったらもうすっかり冷たくなって、もうもうもう……。
……聞いとんのかこらぁ! と、怒り上戸状態になった紙屑屋が、らくだの兄貴に怒鳴りつけます。
ここまででこの紙屑屋、茶碗酒で何杯飲んだと思います?
なんと、かけつけ三杯で、四杯目からこの状態。
まあここらへんが、落語という芸のうまいところやろね。八代目橘家圓蔵なんか「演技力がないから早く酔っちゃうんだ」って感じでやってますが、みんなだいたい似たようなもんです。何杯目で酔うかとか、そこで酒みんななくなるのか、とか思わない。
でもこの落語、稽古するのは大変だよね。酔っちゃうともう、稽古なんてどうでもいいや、みたいな気になるし、酔わないと酔った人がうまく演じられない。
弟弟子とかに酒おごってやって、ちょっとお前、紙屑屋やってくんない? とかやるとうまく行きそうな気がします。
ええと、三年、ってことでしたね。これは、らくだが長屋にやって来てから、一度も家賃を払わないで居続けた年数。
おなじ三年で、『芝浜』の魚屋は立派な店を表通りに持つことになります。
ところが『化物使い』の下男は、三年間、人使いのあらい元御家人の男にこき使われているだけです。
なかなか、三年という期間の区切りに、実感的な意味を持たせるのは難しいもんですね。
自分のブログも、気がつけばもう三年以上続けてるんだけど、はてな運営者に店賃は一銭も払ってない。
というのは嘘です。毎月最低額は払ってるはず。
ところで、自分の新しい目標として「三年ぐらいになんとか、ほどほどに長くてそんなに難しくない、著作権が切れている英語のテキストを日本語で読めるようにしてみる」というのを立ててみました。