砂手紙のなりゆきブログ

KindleDPで本を出しました。Kindleが読めるデバイスで「砂手紙」を検索してください。過去テキストの一覧はこちら→http://d.hatena.ne.jp/sandletter/20120201/p1

2014-02-01から1ヶ月間の記事一覧

隅っこにちょっと何かを置いてピントを合わせない大映スコープの眠狂四郎・三隅研次監督の演出(眠狂四郎炎情剣)

1960年代の映画は、テレビに対抗するために世界中の会社が「○○スコープ」という横長の画面を採用しました。大映の場合は「大映スコープ」です。 三隅研次監督の映画『眠狂四郎炎情剣』(1965年)は市川雷蔵を主人公にした眠狂四郎のシリーズ5作目で、2作目…

日本映画のベスト10に入れてもいいと思うぐらい面白かった『神阪四郎の犯罪』(森繁久彌)

ところでこれ、原作(石川達三)ではいくら確認しても「神坂」なんですが、映画のほうは「神阪」なんですよね。どうなってるんだろう。それはともかく。 映画『神阪四郎の犯罪』(1956年)は男女の心中事件を扱う法廷中心のドラマで、ウィスキーに睡眠薬を入…

野坂昭如・綱淵謙錠・丸谷才一はなぜ旧制新潟高等学校を選んだか

前のブログで「丸谷才一と綱淵謙錠って、旧制高校・大学の後輩と先輩なのにあまり仲良くないよね」みたいな話をしたあと、小谷野敦さんから「文芸春秋1973年1月号に野坂昭如・綱淵謙錠・丸谷才一の鼎談載ってる」と教えてもらったので、図書館に行って読みま…

死ななきゃなおらない馬鹿に関する誤解(次郎長三国志)

マキノ雅弘の次郎長三国志(東宝・東映)は、もはや同時代として見た人はあまり多くはないでしょうが、いろいろ見どころの多い話で、浪曲の二代目広沢虎造が「張子の虎三」という役で、「俺は喧嘩は弱いんだ!」って名セリフつきの次郎長一家の子分として出…

映画のリアルと虚構(ヴィルモス・スィグモンド)

映画というのは小説(文字)と違って、少なくとも商業映画ではどのようにも撮れるというわけではありません。 小説の場合も商業小説としての制約はありますが、「どうしても撮れない角度」みたいなものは映画にはありまして、撮影機材としては1960年代までの…

シナリオに「学校。教室」と書いてあるのを、学校の上下カメラ視点移動と教室の左右カメラ視点移動でアニメにするのはダメ演出

いや、ダメというほどではないんですが、もう少し工夫ができないものかな、といつも思ってしまいます。 アニメの絵を動かさないで画面(視点)だけを上下左右に動かすのは、手間暇と物語の読ませかたを考えると、それはそれでそんなに批判するものではないん…

勝手に人のビルを自社ビルにしている森繁久彌の「社長」シリーズ

まぁ「勝手に」ではないとは思うんですけどね。 わりとありがちなのは、映画会社の関連ビルを○○商事の会社みたいにして写す、って奴ですかね。『社長三代記』(1958年1月)では、ビルの屋上での昼休み風景がありますが、少し遠くに皇居が見えてるんで、東宝…

丸谷才一の人脈とかで話に出てこない人(綱淵謙錠)

丸谷才一は非常に人間関係・人脈を大切にした人で、旧制高校(新潟高校)や大学(東京大学)の先輩・後輩を含め幅広い交際をしており、書評集はその3分の1ぐらいが知り合いの本というぐらいのありさまです(個人的主観)。 にもかかわらず、同じ高校・大学…

劇場版『Wake Up, Girls! 七人のアイドル』が思った以上に黒澤明『七人の侍』だった(WUG)

(今回はタイトル作品のネタバレになっている部分もあるのでご留意ください) アニメ『Wake Up, Girls!』は仙台を舞台にしたローカルアイドルの話ですが、テレビの各話は黒澤明の映画作品に由来し、またアイドルの7人の名前・性格づけも映画『七人の侍』を…

森繁久彌の映画「社長」シリーズの社長ってどのくらいの規模の会社なの?

森繁久彌の「社長」シリーズは、本社が丸の内もしくは銀座で、自社ビルで、だいたい先代社長がいる、ということになってるんですが、そこから先はどうもよくわかりません。 日本国内に複数の支社があり、海外への進出・技術提携も盛んであるという高度成長期…

巡洋艦「春日」と「日進」

19世紀末から20世紀はじめまでのイタリアは有数の造船国家で、アンサルド社とオルランド社が主に軍艦の製造をおこなっていました。 ジュゼッペ・ガリバルディ級装甲巡洋艦はアンサルド社の技師エドワルド・マスデアにより設計されたバランスがよい艦で、当初…

納得出来ない映画『マーティ』の夜間照明

デルバート・マン監督の映画『マーティ』(1955年)は、アカデミー監督賞とカンヌ国際映画祭パルム・ドールというダブル受賞作品で、そんな作品はこれ以外には『失われた週末』(1945年)しかないんですが、普通の映画好きにはいささか忘れられているような…

1960~70年代の洋書の値段がさっぱりわからないので困るけどとりあえず『最後のユニコーン』はアダルト・ファンタジーじゃなかった

リン・カーターという凄腕の編集者がアメリカにいて、彼の編集のもと、バランタイン社のペーパーバックで「アダルト・ファンタジー」というシリーズが1960年代末から1970年代中頃にかけて65冊刊行されました。 細かなデータは例によってisfdb(SFのデータ…

黒人俳優と照明の問題

黒人と白人との撮影の違いについて、撮影監督のジョン・アロンゾは『マスターズオブライト アメリカン・シネマの撮影監督たち』(フィルムアート社)の中で以下のように興味深いことを語っています。・黒人に多くライトを当てることより、白人に対するライト…

光と影が美しい大映時代劇の眠狂四郎(眠狂四郎 円月斬り)

大映時代劇の美術・照明はいろいろな意味で感心します。あの、金をかけて作ってそうな質感のある、リアルと虚構の間にあるような貧乏くさい居酒屋とか農民の小屋のよごれ具合ときたら、ちょっと今どきの映画では滅多に見られない気がします。だいたいそうい…

東映時代劇のよくわからない照明(血斗水滸傳 怒涛の対決)

どうも1950年代の東映時代劇は照明(光源)というものに関してどの程度考えていたのか謎すぎます。佐々木康監督『血斗水滸傳 怒涛の対決』(1959年)は飯岡の助五郎と笹川の繁蔵による争いを描いた映画ですが、夜中の場面でもものすごい照明と謎光源が展開し…

映画「社長」シリーズと観光(社長千一夜)

森繁久彌が社長を演じる東宝の社長シリーズは、1956年から1970年にかけて延々と作られた作品で、高度成長時代の日本のある種の社長の一パターンになっているような気がしますが、どうも加山雄三の若大将シリーズが当時の大学生のリアルを伝えていない程度に…

水上勉と作家たちと女性たち(川上宗薫・吉行淳之介)

1948(昭和23)年に処女作『フライパンの歌』を出した水上勉は、その後一度作家の道をあきらめ、繊維業界紙の広告取りから洋服生地の行商人として、二度目の妻・叡子と共に貧しい生活を、千葉県の松戸でおくっていました(最初の妻には逃げられました)。 裏…

映画の中の昭和の臭い(夫婦善哉)

映画『夫婦善哉』(1955年)は、勘当された大阪の大商店の息子(維康柳吉)の役を森繁久彌、彼と一緒に一家をかまえる水商売の女性(蝶子)役を淡島千景が演じる大阪弁映画です。 話は貧乏と悲惨さが濃厚に映画全体に漂う2時間の非痛快娯楽映画ですがそんな…

映画『待ち伏せ』とあさま山荘事件

稲垣浩監督の最後の作品『待ち伏せ』(1970年)は三船ブロダクションによる制作、1970年3月に公開された東宝映画で、同じ年の1月に公開された岡本喜八監督の『座頭市と用心棒』(勝プロダクション制作)と同じく、三船敏郎と勝新太郎が共演する娯楽時代劇で…

映画『座頭市対魔法少女』(仮)

夕暮れ、宿外れの街道。剣「やっと見つけたぜ、座頭市!」槍「よくも俺たちの仲間をやりやがったな!」銃「無為な殺生はしたくねぇが、これも円環の理ってもんだ!」弓「生きてこの宿場から出られると思うなよ、このどめくら!」盾「やっちまえ!」 座頭市、…

あなたのうしろにある何万人もの死体

戦争体験者の話とか手記読んだりすると、本当にたまたま生き残られたというネタがゴロゴロあります。手塚治虫も水木しげるも運がよかったし、隣の兵隊の頭が撃ちぬかれたとか、原爆落ちたときちょうど物陰だったとか。 最近でも東日本大震災で死んだ人・助か…

森繁久彌は桂文楽で、フランキー堺は古今亭志ん生で、三木のり平は林家三平かな(へそくり社長)

どうも今まで森繁久彌の面白さって分からなかったんだけど、社長シリーズの第一作『へそくり社長』見て少しキャラの把握ができたような気がします。細かいところの動き(芸)が面白いんだよね。『喜劇 駅前弁当』だと、アチャコとテーブルの上でカメラをやり…

漢字のルビ(ふりがな)のつけかた(光文社文庫版江戸川乱歩全集「二銭銅貨」)

普通の活字の本では、難しかったり特殊だったりする文字にはふりがな(ルビ)がついています。 このルビのつけかたに関しては、「日本語組版処理の要件(日本語版)」の「3.3 ルビと圏点処理」というのに目を通してみるといいんです(ネットにあります)が、…

映画『パッチギ!』で納得いかないところ(女体の神秘)

井筒和幸監督の映画『パッチギ!』(2004年)は、京都の朝鮮学校に通う女子高生と、ごく普通の音楽好き日本人男子高校生が恋愛をする話で、1968年の春~秋を舞台にしています。要するにアニメ『坂道のアポロン』の2年ぐらい後の時代。 男子高校生の名前が松…

黒澤明『蜘蛛巣城』冒頭のセリフ

黒澤明の映画はセリフが聞き取りにくいので有名です。舞台経験のある志村喬はともかく、彼と共演する三船敏郎の声が本当に何言ってるのかわからない。それもまた黒澤明っぽいので今まで誰も問題にしてなかったのか。 ということで、数十年ぶり(少し大げさ)…

右を見ないで左を見ると、一面の今井正(1950年代キネマ旬報ベストテン)

1950年代の左翼系(非娯楽系)映画評論家に一番人気があったのは今井正で、当時の人気と今の見られなさ・語られなさぶりの落差に唖然とします。再評価するにはあまりに戦後の一時代を背負いすぎていたのかな、とか思いました。 ざっとその作品を「キネマ旬報…

カンニングと沈黙(吉村公三郎)

1948年、戦後はじめての松竹の助監督公募試験がおこなわれました。 千数百人の応募者はまず課題の作文提出が求められ、書類審査で選ばれた300人が筆記試験で50人に絞られ、面接試験に至るという手順でした。 筆記試験の監視人の一人だった当時の助監督・西河…