砂手紙のなりゆきブログ

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渡瀬恒彦と金沢のブラックジャック(北陸代理戦争)

 渡瀬恒彦は映画『北陸代理戦争』(1977年)撮影中に足を大怪我しました。
 この映画は北陸の若手武闘派ヤクザ・川内弘をモデルにしたもので、撮影現場の仕切りや雪かきなどの雑用に、組のものが多数裏のほうで参加してたんですが、渡瀬恒彦は車の運転をしくじっちゃって足の親指を潰してしまったんですね。
 事故が起きたのは福井県内だったんですが、そういうことには手馴れている組員の運転で、渡瀬は延々と海岸線通りの道を運ばれ、有名・大型病院の前を通っても、
「あんなとこだめや!」
 と言って、たどり着いたのは金沢の小さな診療所。
「ここです。名医や!」
 そこにはガリガリに痩せた小柄な医者と恰幅のいい彼の奥さん。
 奥さんに、
「このくらいでガタガタ言うんじゃないよ!」
 と笑われながら渡瀬は手術を受けました。
 その後、東京で本格的な治療を受けた渡瀬は主治医に言われました。
「これ、誰がやったんですか? あなたね、片足がダメになるところでした。見事に神経が繋がっている。こんな手術ができるのは日本中にもそうはいない」
 結局『北陸代理戦争』の渡瀬恒彦の出ている場面は全部伊吹吾郎で撮り直しになりました。

 今日の記述は『あかんやつら:東映京都撮影所血風録』(春日太一文藝春秋、2013年)に依拠しています。