砂手紙のなりゆきブログ

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1984年の自動車電話(たまらなく、アーベイン)

 田中康夫『たまらなく、アーベイン』は1984年の4月に中央公論社から出版された本ですが、2015年の5月に再刊されました。中身は当時の恋愛と車とAOR事情に関した本なので、そういうのに興味がある人もない人も、というかその時代をもはや知らない人にも多分面白い本です。31年前の本なので、その当時二十代だった人は当然五十代。田中康夫は1956年4月12日生まれなので、当時は28歳、現在(2015年)は59歳です。田中康夫は当時のアダルト&ブラック・コンテンポラリーな曲を巧みに紹介しています。
 しかしなにしろカーナビも携帯電話もなかった時代なので、えーと、CDはもうあったのかな。とにかく好きな曲をカセットに入れてカーステレオで聞くのがオシャレだったという、一応ディズニーランドも苗場プリンスホテルもあるみたいだけど、そこに車で行くには助手席に道路地図を持った彼女がいないといけない。
 で、そこの冒頭で語られている「自動車電話」というのは、だいたいこんな感じ。p20-22

『ま、もちろん、そりゃ、自動車電話が付いていたら便利なんだけれどな、と少年は考えたりもするのですが、ファミリアにカー・テレフォンなんて、ちょっと似合わないよね、と思って公衆電話から彼女のおウチにかけていると、なんと、自動車電話のアンテナをつけている、レオーネやブルーバードが目の前を通過したりして、「ウッ、頭痛い」なんてことになります。
 まだまだ、自動車電話はゼイタク品と思ってる人がいますけれど、一ヶ月三万円の基本料と六・五秒で十円という通話料が、そんなに高くないよね、と考えられる人にとっては、実にもって便利な代物であります。
 (中略)雨が降ってる日なんて、お外に出る必要ないから、「ワッ、便利」気分を実感出来るし、夕方からデートなのに、レストランを予約してないんだ、という日でも、「ねえ、今日は何を食べようか」と車の中で相談して、「私、イタリア料理がいいな」と彼女が言ったら、「それじゃ、キラー通りは、スウェンセンズの近くにある、ラ・パタータにしよう。安くて、おいしいんだ、シェフの腕がいいから」と、ピポパのプッシュ・ホンってのも、デート二、三回目少女との場合は、予期せぬ効果を発揮したりいたします。
 もちろん、サンコー・ストアの前で、車を降りて電話、なんて面倒なこともしなくてすむでしょ。「もしもし、今、国立第二病院の交差点を通過だよ」と自動車電話から電話すればいいわけですしね。
 ところで、自動車電話の番号というのは、030をプッシュした後、東京地区のエアリア・コード31をプッシュして、その後五ケタの固有ナンバーに行くわけですけれど、これが、横浜地区を走っていると、エアリア・コードが32になっちゃうんですね。』

 なんて自動車電話は便利なんだろう。
 なお、現在は車を運転しながら電話しちゃいけないんじゃなかったっけ。
 レストラン「トラットリア ラ・パタータ」は今でも実在していて、食べログの評価は6件なんであまりあてにならない。
 サンコー・ストアは不明だけど、国立第二病院は東京医療センターと名前を変えて駒沢オリンピック公園のとなりにあります。