砂手紙のなりゆきブログ

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『虚無への供物』再読したけど、ヒロインが「よくって?」と言うたびに苦笑してしまう

 中井英夫『虚無への供物』(文庫版は1974年、上下巻に分かれて2004年に再刊)は、戦後没落した氷沼家に起きる4つの密室殺人です(どうも読み返してみると4つ目の殺人は本当にあったことなのかどうか不明。あと本当は「密室と思われる空間で発見された死体」と書いておいたほうがいいのかもしれないけど、慣例に従って密室殺人ということにします)。
 読み始めるとすらすら読めて適当に雑学(衒学)っぽいものが入ってて、ミステリ好きな登場人物がメタな話をします。「そんな古臭いトリック使うわけねーだろ」みたいな感じ。「ミステリの登場人物じゃなかったら死んでるところだ」レベルまでにはメタになってない。あれ? 「ミステリの登場人物だから殺されたのよ」みたいなのはあるか。「いくら小説だからと言って、それはない」と、作中の人物が作中作に対して言っている。
 細かなところを話すとネタバレになりすぎるんですが、解説で出口裕弘が「反小説のはしりのようなジードの『贋金づくり』が、一篇の作品として義理にも面白いといえない」うんぬんというのは頭に来る。
 普通に『贋金づくり』面白いやん。
 それはともかく、この『虚無への供物』で一番面白いところは、最初の密室殺人で探偵もどきの複数人物が適当な推理を出しあうところで、江戸川乱歩は「冗談小説」と言ったらしいんですが、話全体としては真面目すぎるんだよね。
 アントニー・バークリーとか、最初からくだらないやん。英米本格ミステリ(本格という言葉は使われてないけど)黄金時代の作家なのに。個人的にはもっとくだらなさが欲しい。
 でも、作品発表当時はくだらなさ(諧謔的なもの)は慎重に排除されてたんだろうなあ。
 よくって? ミステリ、特に本格ミステリはくだらないものなのよ(と、ヒロインの口調を真似ながら)。